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新潟地方裁判所 昭和23年(行)8号 判決

原告

佐藤與三次

被告

森町村農地委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告森町村農地委員会が原告所有の別紙目録記載の土地につき定めた農地買收計画はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、請求原因として、被告委員会は原告所有の新潟縣南蒲原郡森町村大字小長澤字チゴタ三十番ノ四畑一町三段五畝十五歩につきこれを農地(畑)として農地買收計画を定め昭和二十二年九月十一日其の旨公告したので原告は同月十八日これに対して異議の申立をしたが被告は同月二十六日右申立棄却の決定をなしたので、原告は更に同年十月七日新潟縣農地委員会に対して訴願したが同委員会は昭和二十三年一月十六日右訴願棄却の裁決を爲し、その裁決書は昭和二十三年二月三日原告に到逹して同日原告は裁決のあつたことを知つたのである。

然しながら、右土地の内北東隅の一反四畝三歩を除く其の余の部分は、公簿上の地目は畑となつているが、原告は昭和十四年、五年の二年に亘り其処に桐苗四百十本位を植付け現在は其の全域に亘つて目通り一尺乃至三尺の桐の樹三百八十本位が密生していて、畑として使用して居らず現況は全く山林であるから被告森町村農地委員会がこれを農地として買收計画を定めたのは違法である。

よつて其の取消を求める爲本訴請求に及んだ次第であると陳述し、原告が被告主張の通り被告委員会に対し本件土地を政府において買收すべき旨を申し出でたことは認めるが農地でないから之を買收するのは違法であると述べ立証として甲第一号証の一、二及甲第二号証を提出し、証人坂井源松、同酒井正司の各証言、原告本人訊問の結果並檢証の結果を援用し乙第一号乃至第三号証及第五号証の原本の存在並成立及乙第四号証の成立を何れも認めた。

被告指定代理人は訴却下の判決を求め、本件訴は自作農創設特別措置法第四十七條ノ二附則第七條所定の出訴期間を経過した後に提起せられたものであるから不適法であると述べ、本案について請求棄却の判決を求め、答弁として被告が原告主張の通り本件土地を農地としこれにつき農地買收計画を定めて公告し原告がこれに対して異議の申立並訴願をなし、それぞれ原告主張の通りの決定並裁決があつて裁決書は原告主張の日に送逹されたこと及び本件土地に桐の樹が植えてあることはこれを認めるが本件土地が農地でなく山林であるとの事実はこれを否認する。本件土地はもと訴外早川誠の所有する山林であつたが約二十数年前訴外酒井安兵衞がこれを借り受けて其の子保次の二代に亘り開墾して立派な畑として耕作して來たところ昭和十年頃原告がこれを買受けて桐を植栽したのであるが、其の後も五、六年間は村内の数人の者が右土地の一部を夫々借り受けて畑として耕作し收穫を挙げて居り、原告も亦その植樹した桐の爲に肥培管理をして來たのであつて本件土地は耕作の目的に供される土地であるから農地である。そして、被告は、本件土地の所有者である原告が昭和二十二年九月八日被告に対しこれを政府において買收すべき旨を申しでたので自作農創設特別措置法第三條第五項第六号に依つて右土地につき本件農地買收計画を定めたものである。從つて何等違法の点はないと述べ、立証として乙第一乃至第五号証(乙第一乃至第三及同第五号証はいずれも写を以て)を提出し、証人國山廣雄の証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

被告は、原告の本件訴は記算して自作農創設特別措置法第四十七條の二所定の出訴期間を経過して提起されたものであるから不適法であると主張するので先ず此の点につき按ずるに行政廳の違法な処分の取消又は変更を求める訴の出訴期間は処分につき訴願の裁決を経た場合には、訴願の裁決のあつたことを知つた日又は訴願の裁決の日からこれを起算することは行政事件訴訟特例法第五條第四項の定めるところであつて、同法施行前に提起された本訴についても同樣に解するのが相当である而して被告農地委員会が原告主張の如く本件土地について農地買收計画を定め原告はこれに対してその主張の通り異議の申立並訴願をなし、その訴願棄却の裁決書が昭和二十三年二月三日原告に送逹されたことは当事者間に爭がないので原告は同日右裁決のあつたことを知つたものと認められ其の後同年二月十八日本訴を提起したことは記録上明かである。さすれば本訴は自作農創設特別措置法第四十七條ノ二所定の期間内に提起されたもので適法であるからとの点に関する被告の主張は理由がない、よつて本案について調査するに被告委員会が本件土地を農地と認め、且その所有者である原告が昭和二十二年九月八日被告に対してこれを政府において買收すべき旨を申しいでたので自作農創設特別措置法第三條第五項第六号に依つて本件農地買收計画を定めたものであることは当事者間に爭がない。被告は本件土地には桐の樹が密生していて現況は山林であるから之を農地と認めて買收計画を立てたのは違法であると主張するので按ずるに、本件土地に現在桐の樹が植えてあることは被告の認めるところであるが証人酒井政司、國山廣雄の証言及原告佐藤與三次本人訊問の結果及檢証の結果を綜合すると、本件土地はもと訴外早川誠が所有していて当時は山林であつたが、訴外酒井保次が同人よりこれを借り受け開墾して畑となし地目も変更された後昭和十年頃原告が右早川よりこれを買受け右酒井から土地の返還を受けて昭和十一、二年頃そこに桐の樹を栽培する目的で苗木四百本位を一定の間隔を置いて植付け、其の後六、七年の間毎年土地を耕して硫安、大豆粕等の肥料を施し、又桐の幼樹を雪害等から保護する爲にその幹に藁を卷き、其の後も現在に至るまで虫害を除去する措置を施しなどして肥培管理をして來た結果現在では目通り直徑約八寸位、高さ約三間位に成長を見るに至つたことが認められるのみならず原告が右の如く桐苗を植付けた後数年の間は森町村内の十数人の者が樹の中間の部分を原告の承諾を得又は其の默認の下に夫々借り受けて甘藷、大根小豆等を栽培していたのであつて桐の樹が成長するにつれて漸次耕作を止めるに至つたが土地の一部には最近迄同種の作物を栽培して居たことが認められる。而して斯くの如く山林を開墾して畑となした土地に桐苗を植え肥培管理をして桐樹を栽培して居る場合にはその土地はやはり耕作の目的に供されて居る農地と認むべきが至当である。

さすれば本件土地は農地であるから被告が之を農地として買收計画を定めたのは何等違法ではないのであつて右買收計画の取消を求める原告の本訴請求は失当である。

仍てこれを棄却することゝし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(目録省略)

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